土屋和男



造形表現の可能性探る
「モノの芸術・メディアのアート-表現者たちの冒険-」

(2001/8/1 中日新聞)



 去る六月二三日,静岡市御幸町のサールナートホールに,現代のアートやデザインに関心を持つ多くの方々が集まった。常葉学園大学と常葉美術館が主催し,「モノの芸術・メディアのアート-表現者たちの冒険」と題した公開シンポジウムである。
常葉学園大学は来年度からの造形学部の設置認可を申請中であり,新学部の一つの方向性に示唆をいただこうと考えた企画であったが,芸術家,デザイナー,教育関係者はもとより広く一般の方々からも多数の申込みがあり,造形表現に対する関心の高さを改めて感じた。
当日は二部構成で,第一部を総合芸術家「明和電機」によるトークイベント,第二部を六人のパネリストによるシンポジウムとした。この様子を二回にわたって報告する。


明和電機トークイベント

 トークイベントは「明和電機」とは何か,からはじまった。
明和電機は土佐信道氏による活動だが,その名は彼の父親が過去に経営していた会社名である。高度経済成長期の中小企業を芸術活動のスタイルとし,自らは「社長」,この日の催しは「会社説明会」という。
「製品」の説明は三つのシリーズからなる。第一の「魚器」は,自分探しのテーマを魚をモチーフにしたモノに置き換えて生まれた「魚コード」のようなナンセンスマシーン。第二の「ツクバ」は電気で動くオリジナル楽器で,電子楽器ではなく叩いて音を出す電動楽器。第三の「エーデルワイス」は近未来的な物語をもとにつくられている。明和電機はこれらをおもちゃや電気製品にして大量生産・販売している。

 私たち主催者がこのトークイベントを基調講演に位置づけたのは,明和電機を通して現代の造形表現が浮かび上がるのではないかと考えたからである。
中小企業のパロディーによる,脱力し,とぼけた,ノスタルジックな笑い。ナンセンスな考えを機械にして動かす妙な論理性。従来のプロダクトデザインから考えれば役に立たない「製品」が大量に売れるという事実。
明和電機はアートとデザインの境界など軽々と越えて社会に受容され,それを裏付けるように昨年グッドデザイン賞(日本産業デザイン振興会)を受けた。
また,例えば明和電機がロゴにしている七十年代風の斜めの書体は,十年前には古くさく見えたのに,今は巷の至る所に見られる。これらの現象は,現代社会がどれほど明和電機的なものを求めているかの証左ではなかろうか。そして,それは造形表現の考え方を見直す示唆ともなっていると思われる。


シンポジウム

 シンポジウムには六人のパネリストを招いた。
筑波大名誉教授でホログラフィーアーティストの三田村しゅん右氏をコーディネーターに,「明和電機」の土佐信道氏,メディアアーティストの近森基氏,ユニークな文化進化論を説く東大情報学環助教授の佐倉統氏,大道芸ワールドカップin静岡のプロデューサー甲賀雅章氏,木を使った造形作家で静岡大教育学部教授の杉山明博氏である。この人選は最先端のメディアを駆使しながらも手仕事の面白さを忘れないアーティストたちに,文化論,パフォーマンス論,教育論を交え,新たな造形の方向を探ろうというねらいからであった。

 はじめに三田村氏が,絵画や彫刻のような芸術は光を受けたモノをじっくり見るのに対し,情報メディアを通したアートは発光体を即時的に直観するのであり,現代はそれをどちらも享受していると説明した。
甲賀氏は,身体表現としての大道芸のイベントを続けることで静岡の市民性が積極的になったことを挙げ,アートが共同体を変える可能性を示した。
それを受けて佐倉氏は,芸術の根源にある娯楽性や仲間の結束力を述べ,アートに共感する人々のネットワークも根は同じでこれを忘れてはならないと指摘した。
杉山氏は会場となったサールナートホールのテーブルをデザインした経緯からモノつくりの過程を例示し,それを使用者が手で触れることがテーマであったことを述べた。
さらに近森氏は,鑑賞者が触れるとそこに様々な影が現れる作品を示し,それに対して土佐氏は,影は触れたモノの影ではなくコンピュータの情報を投影してつくりだしていることを挙げ,モノとメディアを一体として構想している点に近森氏同様若い世代としての共感を示した。

 造形表現における,身体感覚の大切さ,ジャンルや手段を超えた総合性,力や楽しみを与える根源的性格などが浮き彫りになったが,これをどのように教育に反映させるかが課題である。
三田村氏が言ったように,新しい情報や技術は学生の方がよく知っている状況のなかで,近森氏は制作環境の大切さを説き,甲賀氏は教える側が楽しまなくてはならないと述べた。

 常葉美術館(菊川町)では,シンポジウムと同タイトルの展覧会を今秋九月二三日より十月十四日まで予定している。三田村氏,近森氏,「明和電機」も含め十名のアーティストの作品からなるこの展覧会は,触れ,働きかけることで成立する作品も多く出品される。シンポジウムで話題となったこれからの造形表現が実際どのようなものか,ご高覧いただければ幸いである。



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