土屋和男



グランシップの現在
『GA JAPAN』(2001.3,エー・ディー・エーエディタ・トーキョー)より



 磯崎新アトリエ設計の静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」ができて2年になった。

 新幹線の車窓から目にされた方も多いだろう。筆者も車内で「あれ何?」と言う声を何度か聞いた。
あのデザインが選択されたのもこの状況を狙ってのことだったと思われる。すぐ横を走る新幹線や東海道線のスピードに対応したスケールが,長さ200m超,高さ60mに及ぶ巨体だった。
本年は家康の東海道宿駅から400年で,県がキャンペーンを行っているが,かつて街道は都市であった。人が歩いていた時代,街道は身体のスケールで文化が行き交う場所であった。
現代は新幹線のスケールでないと文化を見せることができない。

 このように目立つものをつくらなければならなかったという事情はわかる。
磯崎氏はこの種の表現の適任者だし,4600人収容可の大ホールを高さ58mに達する空間としてそれに応えた。
しかし県民にこうしたデザインがどれほど受け容れられているかということになると疑問を挿みたくなる。
例えば大ホールでは音のコントロールのしにくさや,便所の不足などが指摘されている。また,この立地ならではの富士山の景観や,せっかくの大空間に親しむための計画が不足しているという意見にも頷ける。
グランシップは特命で設計された。過去に仮説を立てても仕方がないが,コンペが行われていたらと考えると,なぜこのようなデザインなのかが広く議論され,それに対する理解も深まったことと思う。
本誌上で同時に発表された「なら100年会館」がコンペ段階から話題になったことを考えると,静岡県の建築デザインへの関心を得る機会であったのにと思う。
コンペでつまらないものが選ばれるよりも結果的によいと言う意見もあろう。ただ,総工費を県民の人口で割ると一人あたり13000円を超すプロジェクトであることを踏まえると,疑問は残る。

 開館後,運営にあたる静岡県文化財団は県民の施設であることを強調している。館内見学を随時行い,各種イベントや館の運営へも県民の参加を呼びかけている。
季刊のPR誌を発刊し,それによると開館年には県民ら約500名によるパフォーマンスが開催された。また,学生向けにデジタルアートや照明デザインのコンペを行い,館の施設を利用して実現させている。
建築的特徴を活かしたものとしては,年4回各種の施設が複合した空間を同時に開放して県民参加型の催しを行っている。さらに大ホールをカフェにするという企画も昨年10月からはじまった。これはゴシックのカテドラルになぞらえて説明された空間の体験を主眼にした催しと言ってよい。
こうした企画,運営は評価されるべきであろう。しかし準備不足も見受けられる。例えば年8回行われるはずであったカフェの企画は既に中止となる月がでているし,照明デザインコンペはPR誌で「追ってリリース」とされた翌号ではもう入賞者が決まっている。計画的な運営と情報伝達が望まれる。

 グランシップには施設利用表によると,ホール,ギャラリー,会議室が合わせて26もあり,別に静岡芸術劇場がある。これらが全て同時に稼働したことが何回あるか知らないが,普段でもかなりの人が出入りしているに違いない。
だが,周囲に都市的な賑わいはない。この周辺は都市開発計画地だが,今のところグランシップができる前とほとんど変わらない。
グランシップはホールを同一軸上に配しており,この構成はル・コルビュジエのソヴィエト宮案を思わせる。
コーリン・ロウらが「コラージュ・シティ」で述べたとおり,これは都市的状況を絶った構成である。さらにここでは施設群をひとつの大きな殻のなかに収めている。
このようにグランシップからは人の動きが都市空間に現れにくく,都市中核施設としてのあのデザインへの評価は,周囲に都市がつくられてからだろう。それにはまだ長い期間を要すると思われる。



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